カヴァレリアトスカーナへの見解

それは刑務所で入札の結果、本年も紙風船は丸福に落ちていたのだった。だから柿色の紙風船は、この店にあるより外に、行く先がなかった。売れたのかしら?
「……もう風船はないのですか」
「唯今、これだけで……」
「そうですか。どこかにしまってあるんじゃないですか」
「いいえ」
 小僧さんは悲しいことを云った。
 私はガッカリして、立ち上る元気もなかった。そのとき奥から番頭らしいのが、声をかけた。
「吉松。さっき、あすこから来たのがあるじゃないか。あれを御覧に入れなさい」
「ああ、そうでしたネ。……少々お待ち下さい。今日入った分がございましたから」
「今日入ったのですか。ああ、そうですか」
 私は悦びに飴のように崩れてくる顔の形を、どうすることも出来なかった。小僧さんは、大きいハトロン紙の包みをベリベリと剥いた。
「これは如何さまで……」
「ああ――。」
 私は一と目で、柿色の紙風船が重なっているところを見付けた。
「あ、こいつはお誂え向きだ。こいつを買いましょう。」
 私は十円|紙幣を抛り出して、沢山の風船を買った。小僧さんが包んでくれる間も、誰かが邪魔にやって来ないかと、気が気じゃなかった。だがそれは杞憂にすぎなかった。
 私は風船の入った包みをぶら下げて、店を出た。ところが店の前を五六間行くか行かないところで、私はギョッとした。私の顔見知りの男が、向うから歩いて来るのである。それは帆村という探偵に違いなかった。

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